ハンガリーでは 6 月から、 食品スーパーなどで強制的な割引セールが始まる見込みです。
「 強制的 」というのは、国によって実施が義務付けられるから。食品価格高騰の鎮静化が狙いですが、いったいどんなセールなのでしょうか? 現在も統制が続いている、一部の基礎食品の価格制度も交えながらお伝えします。
強制割引セール : 毎週 20 品が対象に
政府は 4 月 20 日、食品小売業者に対して「 割引セール」の実施を義務付ける、と発表しました。セール対象品は毎週変わります。開始は 6 月 1 日の予定。
だいたいこのようになる見込みです。
- 食品は、20 のグループに分けられる。( 6/1 更新情報:グループは以下の通り) パン類、鶏肉類、生鮮野菜類、果物類、
乳製品類
- 小売業者は毎週、各グループの中から少なくとも 1 つの食品を割引セール対象とする。実店舗に加え、ネットストアでも実施する。どの食品をセール対象とするかは各店舗 ( 各事業者 ) が決定する。
- 割引価格は、過去 30 日間の最低価格から少なくとも 10 % 引とする。
- セール対象食品は、毎週変更されなくてはならない。( 1 週間の単位は木曜 0 時~翌週水曜 24 時まで )
- 統制価格対象になっている食品は、セール対象としてはならない。
- セール対象食品は、スーパーのチラシやネット広告に加え、店舗入口前にポスターなどで明示。
- 割引セールの実施が義務付けられるのは、2021 年の売上高が
5 億 Ft以上の小売事業者。例として、Spar、Aldi、Lidl、Tescoなど全国展開の食品スーパーが対象になります。( 更新情報: 売上高 10 億 Ft 以上の小売事業者になりました。そのため、) - 実施期間は、2023 年 6 月 1 日から 9 月 30 日の 4 か月間。
つまり、例えば、とあるお店では、ある週はパン類では白パン、野菜類では人参など合計 20 品がセールの対象になり、翌週には全粒粉パン、キャベツが対象、というような形になります。これにより、一部の食品群、特定の食品に偏ることなく、満遍なく割引を進めるのが狙い。
( 更新情報:強制割引セールが実際に始まったところ、Aldi、Lidl、PennyMarket などは割引率を最大 50 %にしたり、対象品目を拡大したりするなど発表。それにより集客を図るのが狙いのよう。)
また政府は、この強制割引セールの開始とともに、「 オンライン・価格監視システム 」も開始する予定です。こちらも詳細はまだ決まっていませんが、消費者は、特定の食品についてスーパーマーケットごとの価格情報を得て、比較できるようになるとのこと。過剰な価格上昇を防止し、小売業者間での競争を促進することが目的としています。(更新情報: 60 以上の品目が対象になる予定です)
基礎食品の価格統制制度は6月末まで
「 強制割引セール 」は、政府による小売業者への価格介入の第 2 弾となります。
最初に行ったのは、一部の基礎食品の価格を、過去の時点の価格に固定する制度 ( ハンガリー語は “élelmiszerár-stop” )。2022 年 2 月の開始以来、何度も延長し、今も続いています。
そして政府はこのほど、割引セールの発表と同時に、再び延長して 2023 年6月 30日までとすることを決定しました。
- グラニュー糖
- 小麦粉 ( BL55 )
- ひまわり食用油
- 豚もも肉
- 鶏むね肉および鶏背中尻
- 牛乳 ( UHT=超高温殺菌のロングライフ、脂肪分2.8% )
- 卵
- じゃがいも ( 新じゃがいも除く )
小売業者は、① ~ ⑥ は 2021 年10 月 15 日時点の価格、⑦ ⑧ は 2022 年 9 月 30 日時点の価格で販売しなければならないことになっています。
国が介入するワケ
スーパーでの販売価格や割引セールを、国がなぜ強制するのでしょうか?
それは、ハンガリーの食品価格上昇がすさまじいから。
3 月は、1 年前と比較して 42 % あまり上昇。EU 域内でもハンガリーの上昇率は飛びぬけて高く、1 位という不名誉な状態がここ数か月続いています。
中には、 2 倍前後になったものも。下の図は、卵、白パン、チーズ、牛乳といった日常的な食品の価格の上昇ぶりを示したものです。
政府は、「 戦争と EU の対ロシア制裁のせい 」で 物価が高騰したものの、「 政府による家族を守る様々な措置のお陰で 」 物価上昇は本年 1 月にピークに達したと判断しています。
しかしその後、確実に減速しているというよりは「 高止まり 」。これは政府も認めているところです。
今年に入って、一部のスーパーではバターなど特定食品の値下げが始まりましたが、あくまでも限定的。政府は、より広範に物価上昇が落ち着くのを実感できるようにするには、こうした介入措置が必要と説明しています。
本当にインフレは鎮静化するのか
強制割引セールについては詳細が未定であり、まだ開始にもなっていないため、効果を予測するのは難しいです。
ただハンガリー全国小売協会は既に、新たな介入措置は、これまでの統制価格同様に、インフレ問題の解決にはならないと主張しています。
また一部の識者からは次のような懸念の声も。
- 小売業者が割引セールでの損失穴埋めのため、他食品の価格を引き上げうる
- 割引食品の供給問題が起きかねない
- 安価で質の悪い食品の輸入が増える
基礎食品の価格統制制度については、ハンガリー国立銀行 (中央銀行) からも弊害が指摘されていました。国立銀行は、こうした介入が逆に食品価格を間接的に 3 ~ 4 % 押し上げていると政府を批判。業者が統制対象以外の類似食品価格を引き上げているからとし、速やかに制度を終了すべきと警告していました。
総じて経済識者らは、長期にわたる市場介入措置には反対の立場。一方で政府は、23 年末までに総合物価上昇率を 1 ケタ台まで低下させるという目標は何としてでも達成する構え。そのためには食品価格上昇率の削減がカギになります。
政府は、本来、市場介入はすべきではないと認めつつ、現在のような非常事態下では、家計の帳尻を合わせるのに精いっぱいの市民を守るために必要な措置と強調しています。