どうなる、インフレ?

ハンガリーではすさまじいインフレが止まりません。特に食品価格の上昇がひどく、買い物に行く度に「えぇ、また上がってる !!」とげんなりするほど。市民の中では、「 家計を直撃 」という言葉を通り過ぎて「 家計が崩壊してしまう 」という恐れさえ広がっています。

いったいこのインフレはいつまで続くのでしょうか?  食品の価格を中心に、現状と最新予測をお伝えします。( すべてのデータは 2023 年 1 月 15 日現在です ) 

 

過去 25 年で最悪の物価高

図作成:ハンガリー経済情報

 

ハンガリー中央統計局によりますと、2022 年 12 月の消費者物価は前年同月比で 24.5 % でした。これほどインフレがひどいのは 1996 年以来のこと。

うち、特に値上がりが激しいのは食品で、44.8 %

ただ、当地で暮らしている方々は、「もっと上がっている」感覚 をお持ちではないでしょうか。

それもそのはず、食品の中でも、頻繁に消費するものに限って尋常ではないスピードで値上がりしているのです。

 

価格上昇が激しい食品

▷ チーズ:+83.2%
▷ 卵:+82.7%
▷ パン:+81.1%
▷ バター:+79.4%
▷ 乳製品 ( チーズ除く ):+79.2%
▷ 乾燥パスタ:+70.8%
▷ マーガリン:+58.0%
▷ 牛乳:+52.1%
▷ コメ類:+51.9%
▷ 鶏肉 (家禽類) :+51.5%

( 出典:ハンガリー中央統計局。2022 年 12 月、前年同月比 )

 

例えば、以前は 500 Ft あれば買えたパンが、今や 1000 Ft 近くになっています。

牛乳も1 リットルパックは今は 500 Ft 台がほとんど。600 Ft 台も見かけます。「 ちょっと前までは 300 Ft 以下もあったよね ?? 」と、思わず口にでてしまう状況です。

その一方で、給料は同じスピードでは上昇していません。食品に加えて電気ガスやいろいろなものが急激に値上がりしているため、このまま進むと「 単に節約のレベルではやりくりできなくなる 」と多くの市民が心配をしています。

Ft = ハンガリーフォリント。2023年1月15日現在、100 Ft=約 35円 

電気ガス、気をつけないと請求額が数倍に!? 

2022.08.19

 

なんでこんなに高騰する?

物価高は、ハンガリーだけではなく、世界中で起きています。

でもハンガリーのインフレは現在、欧州連合  ( EU )  27 加盟国の中でも最も高い水準食品価格の高騰ぶりもEU 1 位です。

なぜハンガリーばかりこんなことに ??

HICP=EU 基準消費者物価指数。EU で統一した算出方法を用いているため、加盟各国統計局が独自に算出した指数とは若干異なる。データ出典:欧州統計局 Eurostat 図作成:ハンガリー経済情報

 

オルバーン・ヴィクトル首相率いる政府の説明は、ロシアがウクライナに侵攻した 22 年 2 月直後は「 戦争が引き起こしたインフレ ( háborús infláció )でした。

EU が対ロシア経済制裁を導入し始めてからは、「 制裁が引き起こしたインフレ ( szankciós infláció ) 」という言い方が主流に。

つまり、制裁こそがエネルギー価格を青天井で上昇させ、物価高騰につながっていると主張しています。そのため、ことあるごとに「 EU制裁政策は失敗した。制裁を課している EU 諸国の方がロシアよりも打撃を受けている 」と 制裁を早々にやめるよう訴えています。

しかしそれだけでは、ハンガリーの物価高が EU 1 位である説明はつかず。

確かに戦争やエネルギー価格高騰によるの影響はあるものの、当地のインフレは戦争が始まる前から EU 平均よりも高かったのです。経済識者らは、もっと複合的な問題があり、その中には政府の失策や、農業食品産業全体の課題も含まれていると指摘しています。

 

識者らが挙げる食品価格高騰の主な要因
  • エネルギー価格の高騰 ➞ 農業生産加工の過程で必ず使われるもの。加えて、化学肥料などの生産には多くのエネルギーが必要。
  • 農業・食品産業の生産性の低さ ➞ 例として、生産加工過程で使うエネルギーの割合が高い。
  • 干ばつ被害 ➞ 22 年夏は記録的な干ばつで多くの作物が不作に。灌漑インフラが未発達なうえに、作付面積あたりの収穫量がもともと低いため大打撃に。
  • 戦争 ➞ 化学肥料や飼料の高騰の他、物流の混乱や輸送コストの上昇、食品貿易の混乱。
  • フォリント安 ➞ 単に輸入食品だけが値上がりするだけでなく、肥料や飼料、原材料も値上がり。フォリント安には様々な原因が考えられるが、政府の経済政策や EU との対立も大きい。
  • 人件費の上昇
  • 小売業者の便乗値上げ ➞ 現在、政府は 8 つの基礎食品の価格を統制しており、小売業者はこれらの販売では損失を強いられている。加えて、戦争開始後に課せられた「 超過利潤税 」や光熱料金上昇のため、ますます負担が増大。これらの穴埋めのために、他の食品の価格を引き上げる傾向がある ( 統制価格については後述 )。

 

2023 年の見通し

政府もハンガリー国立銀行 ( 中央銀行 ) も、インフレは 2022 年末 ~ 2023 年初にピークに達すると予測しています。

国立銀行によりますと、今年半ばからは上昇率の低下も加速する見通し。世界では既にインフレ減速の兆しが見えており、今後は国内需要も縮小すると考えられるからです。( 出典: Magyar Nemzeti Bank, Inflációs jelentés- 2022. december )

ただし残念ながら年平均にした場合は2023 年は 15 ~ 19.5%増と、2022 年平均の 14.5%よりもやや高くなることを予想をしています。

さらに食品価格は通年で+29.7% を予測。こちらも 2022 年平均 26 %を数パーセント上回ることになります。

政府による 2023 年平均のインフレ全体の予測は 15%。物価安定を最大目標にしている国立銀行の予測よりは楽観的です。政府の今年の目標は、 12 月にはインフレを 1 ケタに抑制すること。しかしそもそもその比較の基準になる 2022 年 12 月の上昇率が高いので、達成はそれほど難しくはないとされています。

 

統制価格の行方

スーパーなど食品小売店は、8 つの食品に価格凍結制度 ( árstop ) が導入されていることを示す紙を提示しなければならない。画像出典:政府公式HP Kormany.hu

 

ハンガリーでは現在、8 つの基礎食品の価格が固定されています。政府の説明では、急激な価格上昇から市民を守るため。

統制価格対象の食品
  1. グラニュー糖
  2. 小麦粉 ( BL55 )
  3. ひまわり食用油
  4. 豚もも肉
  5. 鶏むね肉および鶏背中尻
  6. 牛乳 ( UHT=超高温殺菌のロングライフタイプ、脂肪分2.8% )
  7. じゃがいも ( 新じゃがいも除く )

うち ① ~ ⑥  については、戦争開始前の 2022 年 2 月 1 日に導入。政府は小売事業者に対して、これらの食品の販売価格を 2021 年 10 月 15 日時点の価格で固定するよう義務付けました。

2022 年 11 月 10 日からは、急激に価格が上昇していた卵と、ジャガイモも追加に。同年 9 月 30 日の価格で固定となりました。( ただし市場は対象外 )

実施期間はほぼ 3 か月毎に何度も更新されており、現在は本年 4 月末までに。

 

ただし、この制度の弊害も指摘されています。

ハンガリー国立銀行は、統制価格こそが供給不足問題を引き起こしうること、同時に販売業者が損失カバーのために他の食品の価格引き上げに走っていることを警告。

こうした声は徐々に増大しているため、春にインフレ減速の兆しが確認されれば、 再延長なしで 終了しうるでしょう。

一方で、4 月末の期限を待たずとも、供給が混乱すれば、途中で終了になる可能性もあります。政府は 1 月 13 日から「必要に応じて統制価格導入前の販売量の 2 倍量を確保しなければならない」と小売店に義務付けましたが、それでもなお売り切れや品薄状態になっている店がかなりある状況。昨年 12月、同じように価格統制がされていた自動車燃料は売り切れ続出となり、ガソリンスタンドは大混乱に陥りました。そのため政府は、措置の突然の終了を余儀なくされています。

国内の小売店では、価格統制対象の食品の購入制限を設けているところがほとんど。この店では、買い物客 1 人あたり、小麦粉 4 キロ、グラニュー糖 1 キロ、ひまわり油 1 リットル 2本、ロングライフ牛乳 1 リットル 1 本まで。
Photo by Ako

 

ABOUTこの記事をかいた人

鷲尾亜子

1997年よりハンガリー在住。日本とハンガリーでの新聞記者の経験を活かし、現在、Twitter では「 ハンガリーのニュース 」、また政治経済ニュースレター「 ハンガリー経済情報 」( 有料 ) を配信中。