ハンガリーの妊婦健診制度 ( 3 ) 特殊事情


今回は、妊娠・出産で、知っておきたいハンガリーの特殊事情です。「 もともと公立医療サービスが中心 」というところに由来するもので、少々ややこしいです。でも大丈夫。まずはハンガリー人の一般的なパターン、次に外国人にはどのような選択肢があるのか見ていきます。( わかりやすい図入り!)

ハンガリーの一般的なパターン

まずは、ハンガリー人女性が出産する場合の、標準的なパターンです。

最もよく聞くのは、

◎ 健診 ⇒ 私立診療所
◎ 出産国立病院

というもの ( 特に都市部 )。 自宅出産はほとんどありません。

ただ、「 国立病院で 」と言っても、実際に出産を担当するのは、私立診療所での主治医です。国立病院という場所を借りて、ドクターに出張してきてもらうイメージ。

どうしてこのような状況になっているでしょうか。

ハンガリーでは、国家健康保険の加入者ならば、公立医療機関での妊婦健診・検査、出産は基本的に自己負担ゼロ。でもそれは、「 特別待遇はなし」ということでもあります。つまり、医師は健診ごとに違う、また出産で初対面、ということもありえるのです。

ハンガリー人の友人と話していると、

「 お金を払ってでも、妊娠から分娩まで、1 人の信頼おける医師に担当してもらいたい 」

という考えが強いように感じます。その際重要なのは、口コミの評判

そのため長年、建前としては無料のはずの公立病院でも、非公式に 「 謝礼金 ( hálapénz ) 」を渡して同じ先生になるよう手配するのが慣例になっていました。

ハンガリーの医療制度 ( 公的と私的サービス )

2018.02.18

ハンガリーの昔の写真屋さんでは、縁をギザギザカットにすることもお願いできたそう。Photo by Ako

そうした中、ここ 10 ~ 15 年で急増したのが私立診療所 ( magánrendelő ) のサービス。患者の側からすれば、相場の不明瞭な謝礼金を支払うのであれば、私立に行っても同じ。待ち時間もないし、様々な面で快適、というような考えから発展してきたようです。

一方、医師の側からしても、プライベート診療の方が報酬は高まるため、開業への動機づけは十分あったわけです。

ただ、こうした私立診療所はほとんど外来専門。そのため、分娩は国立病院を利用するのが一般的です。この辺りの「 公 」と「 私 」の混合ぶりが、ハンガリー特有の事情なんですね。

分娩・入院設備を整えた私立病院は、数が少ないうえ、かなりの高額。一方で国立病院の利用自体は、国家健康保険に入っていれば無料という大きな利点あり。 ( 出張してきてくれる医師には料金を払います。 )

では、外国人である日本人にはどのような選択肢があるのでしょうか。国家保険に加入していない場合 ( 主に駐在員帯同 ) 、加入している場合 ( 主に国際結婚 ) に分けて、それぞれのパターンをご紹介していきます。

国家保険未加入の場合

上記の図は、考えられる 3 つのパターンです。異なるのは出産の場所になります。

パターン1 里帰り出産

健診・検査は私立クリニックか私立病院で行い、出産は日本に帰ります。

もともと外国人を念頭にしている私立クリニックや病院では、英語対応が可能です。また、海外の保険への対応、英語での記録文書作成の体制も万全。クリニックによっては日本語通訳のサービスもあります。

里帰り出産を考えている方は、早めに医師にその旨伝え、タイミングなど相談しておきましょう。

次のパターン2、3は、ハンガリーで出産の場合です。

パターン2 健診・検査、出産も私立

すべて、私立のサービスを利用。ただ、妊婦健診で通う医療機関が、外来専門か、それとも分娩も対応できる病院なのかにより変わってきます。

クリニック ( 診療所 ) と病院の違い

外国人向け私立クリニック: 外来専門で妊婦健診・検査はできますが、出産のための設備は持っていません。 ( 例:Rózsakert Medical Center、Firstmed )

私立病院: 妊婦健診・検査から出産までトータルで行えます。数は少ないです。 ( 例:Róbert、Dr. Rose、Maternity Obstetrics and Gynecology Private Clinic )

【 外来専門に通院していた場合 】

外来専門クリニックで診てもらっていた場合は、出産は別の私立病院になります。クリニックは私立病院と提携していますので、紹介してもらえます。なお、ハンガリーでは、かなり前から予定日前後で予約をしたり、前金を支払う習慣はないです

私立病院では、その病院の当直医師 ( ügyeletes orvos ) に分娩をお願いすることも可能。ただし一般的なのは、クリニックでの健診担当医師に出張してきてもらうケースです。

その場合は、私立病院には入院費 ( 出生してから通常 72 時間 ) を支払うのとは別に、分娩料金をクリニックにも支払い。 ( その後、担当医師が指名分としてクリニックから受け取る仕組みなので、別途医師に「謝礼金」を払う必要はありません。 )

陣痛が始まったり、破水をした場合はまず病院に。そこで子宮口が開くなど出産準備に入ったと判断されれば、病院が担当医師を呼び出してくれます。

病院が決まったら、下見しておくことをお勧めします。第 3 トリメステルで行うノンストレステスト自体をクリニックではなく病院で行い、慣れておくこともできます。

ハンガリーの妊婦健診制度 ( 2 )

2019.01.16

【 私立病院に通院していた場合 】
健診段階から私立病院だった場合は、分娩も同じ院というのが通常のケースでしょう。ただし、ここでも、担当医師を指名する場合は、料金が上昇します。

さらに近年は、助産師 ( szülésznő ) も指名するケースが多くなっています。ノンストレステストは助産師が担当しますが、その時に指名することが多いようです。

次の表は、Robert 病院 ( RKK ) が公表している料金をもとに作ったものです。医師、助産師とも指名すれば高くなることがわかります。外部医師、助産師にお願いした場合 ( 表の * 項目 )、病院への支払いは減りますが、医師、助産師へ別途料金が生じますのでご注意ください。

表: RKK 病院の「 出産パッケージ料金 」

パターン3 健診・検査は私立、出産場所は国立病院

健診・検査を私立で行っても、出産場所は「 国立病院 」、という選択も可能です。

この場合、分娩自体は、あらかじめお願いしていた私立クリニックの医師が出張してくる形に。

国家健康保険に加入していなければ、国立病院での分娩・入院費用 ( 通常出生後 72 時間 ) がすべて課されます。一方で、医師 ( または医師の勤務先私立クリニック ) には分娩料金を支払います。

また、分娩後に担当医師が帰ってしまえば、国立病院の看護師、医師が診ることに。医師は英語を話す人がかなりいますが、看護師は少ないです。

ただし一つ付記しておきたいのは、私立病院のサービスがすべての面で国立より優れているかと言えばそうでもないことです。スムーズな分娩の場合は良いのですが、母体や赤ちゃんに何かあったとき対応できる十分な設備がなく、国立病院に搬送されることもあります

気になる料金、いったいどのくらい ?
外国人向けの私立医療機関のほとんどが、妊婦健診検査パッケージ、出産パッケージを持っており、1 つ 1 つ支払うよりは若干お得になります。

とは言うものの、それぞれ数十万 Ft 。最低でも合計 100 万 Ft 前後にはなる心積もりをしていた方がよいようです。

日本の海外旅行保険は、一般的に妊婦健診や出産は補償対象外ですが、条件付で対象となる保険もあります。

また、日本の健康保険 ( 国民健康保険または社会保険 ) に加入している場合、妊娠・出産費用は、出産育児一時金を申請し、受理することが可能です。

Ft = フォリント 100 Ft =約 40 円 2019 年 1 月現在

国家保険加入の場合

国家健康保険に加入している場合は、一般ハンガリー人と同様の選択肢を持つことになります。

パターン1 健診・検査は私立、出産も私立

この場合は、国家健康保険は適用にならないため、全額負担。 ( 適用になる民間保険に加入している場合はカバーされます。 )

上項のパターン2とほぼ同じですが、外来専門の私立診療所には、主にハンガリー人を対象にしたものと、もとから外国人を対象にしているところがあります。料金は前者の方が安めではありますが、基本はハンガリー語でのやり取りと考えてください。

最初から依頼したい医師がいない場合は ?

ハンガリー人がまず探すのは、場所 ( 診療所や病院 ) ではなく医師。友人・親戚らの口コミ評判の中から、通院しやすい場所で診療している医師に絞っていきます。でも、外国人など、事前にそうした特定の医師を知らない場合は、とりあえず診療所に行きましょう。そこで信頼できそうな医師に出会えれば、健診から分娩までお願いするのも可能です。

パターン2 健診・検査は私立、出産は公立

出産を国立病院にする場合、病院での費用は国家保険がカバーします。 ( ただし、シャワートイレ付き VIP ルーム利用は個人負担。1 泊 1.5 ~ 2 万 Ft 程度 )

私立診療所での主治医に分娩をお願いする場合は、別途 10 ~ 15 万 Ft 程度支払うのが相場のようです。領収書が必要な場合、きちんとお願いできます。

友人の産婦人科医アーゴタによると、料金は決まっている場合もいない場合もあるとのこと。わからなければ医師に事前に聞くのがよいそうです。

パターン3 健診は私立、検査は公立

健診は私立でも、検査を公立にすることで、費用を抑えることが可能です。

妊婦健診検査制度 ( 1 ) の記事で、表の☆印の検査は、公的機関を利用すれば自己負担はゼロになります。 ( 例:一般的な血液検査、尿検査など )

ハンガリーの妊婦健診制度 ( 1 )

2019.01.11

ただ、私立のように効率よく周ることは難しく、時間はかかります。また、公立の受付や看護師などは基本的に英語が話せません。

パターン4 すべて、公立の医療機関

健診、検査から出産まですべてを公立医療機関で行うものです。都市部では近年、このパターンはとても少なくなっています。またすべてを公立機関で行っても、やはり出産後に 5 万~ 15 万 Ft 程度の謝礼金を渡すのは慣例のようです。

以上、複数のパターンを見てきました。妊娠・出産の際の医師選び、病院選びは、多くの要素により、人それぞれです。多方面から検討され、最良な方法が見いだせますことを願っております。

( 今回の記事作成にあたっては、私立クリニック・病院ホームページ、国内の妊婦出産関連サイトから情報を得るとともに、産婦人科医アーゴタの協力を得ました。)

ABOUTこの記事をかいた人

鷲尾亜子

1997年よりハンガリー在住。日本とハンガリーでの新聞記者の経験を活かし、現在、Twitter では「 ハンガリーのニュース 」、また政治経済ニュースレター「 ハンガリー経済情報 」( 有料 ) を配信中。