まさに大盤振る舞い! 新家族政策

オルバーン首相は 2 月 10 日、びっくりするほどの手厚い家族政策 を発表しました。例えば、3 人出産で事実上 400 万円ほどプレゼント、住宅ローン返済への支援、個人所得税の生涯免除、おばあちゃんへの育児手当の支給など。それもこれも、出産を促し、減り続ける人口を転換させたいため。今回は、新政策についてお伝えします。

7 項目の措置

早速、発表された 7 つの各項目を見ていきましょう。

9 年で 3 人産めば 1000 万 Ft?

最初の措置は、女性 ( 18 ~ 40 歳 ) が結婚する際、国から最大 1000 万 Ft ( * )  の融資を受けられるというもの。

( *Ft = ハンガリーフォリント、100 Ft = 40 円弱、2019 年 2 月現在 )

「 融資 」ではありますが無利子。想定される返済期間は最大 20 年なので、その場合、毎月の返済額は 41,700 Ft になります。そしてここからが、この措置の目玉ですが、子どもを産むたびに返済が猶予され、元金も棒引きされていくのです!! 

・第 1 子出産 ⇒ 返済を 3 年間猶予 ( つまり、3 年返済しなくて良いということ )
・第 2 子出産 ⇒ さらに 3 年間、返済を猶予、および元金 3 分の 1 を棒引き。
・第 3 子出産 ⇒ ローン残高をすべて返済免除。
そのため理論上は、借り入れ直後から3 年以内毎に 3 人産めば、1000 万 Ft がもらえることになります。

ハンガリーの平均給与は、税込みで月約 32.7 万 Ft、税引き後で約 21.7 万 Ft  ( 2018年1-11月、中央統計局) のため、年収の 2.5 倍以上にも相当する額になります。

借入金の使途の縛りはないので、何に使っても OK 。既婚者でも借り入れできますが、その場合は、措置施行日の 2019 年 7 月 1 日以降に生まれた子どもから対象となります。

借り入れの要件で重要なのは、最低 3 年間は正規就労 ( 医療社会保険料を納付 ) していること。また、5 年以内に出産しなければ、利子付きで返済しなければなりません。

住宅購入支援プログラムCSOKの拡張

既存の「マイホーム購入支援プログラム ( CSOK )」の拡張、および条件緩和。

CSOK は、2016 年 1 月から開始したプログラムです。いくつかの支援形式があり、扶養対象の子どもの数が多いほど、支援は手厚くなっています。

昨秋に改正された制度では、第 2 子出産で 1000 万 Ft、第 3 子 出産で 1500 万 Ft の低利融資を受けられるよう規模が拡大。今回は融資の対象を、新築住宅のみだけではなく、中古住宅にも広げます。また、購入住宅の価格上限 3500 万 Ft を撤廃します。

近年の住宅購入ブーム ( 加えて価格急上昇 ) には、CSOK が重要な役割を果たしています。Photo by Ako

出産ごとに、国が住宅ローン返済肩代わり

これも既存の制度を拡充するもの。子どもの数に応じて、住宅ローン残高の一部を国が肩代わりして返済します。現行制度では 3 人出産で 100 万 Ft 肩代わり、それ以降 1 人に付き 100 万 Ft ずつですが、新制度では次のようになります。

・第 2 子出産で 100 万 Ft
・第 3 子出産で 400 万 Ft
・第 4 子出産以降は 1 人につき 100 万 Ft

4 人産めば一生、個人所得税なし

4 人以上出産した女性には、生涯、個人所得税を免除 ( 養子も対象 )。  既に 4 人の子どもを持つ女性にも適用されます。 2020 年 1 月 1 日から。

現在の個人所得税率は一律 15 %。平均年収 ( 約 400 万 Ft ) を得ている女性ならば、年に 60 万 Ftも浮く勘定になります。ただ、4 人出産した後もずっと働かない限りは ( もしくは何らかの所得がないかぎりは )、この恩恵を得ることはできません。

7 人乗り車購入には 250 万 Ft 補助金

子ども 3 人以上の家族が、7 人乗り乗用車を購入する場合、250 万 Ft の補助金を支給します ( 返済不要 )。

人材省 ( 家族政策所管 ) によると、市民が 4 人目の出産を躊躇するのは、移動が大変、というのが理由の一つ。そうした阻害要因を取り除くのが目的です。2019 年 7 月 1 日から施行。

すべての子に保育園を

ハンガリーでは、3 歳以上のすべての幼児が幼稚園 ( Óvoda ) に行かれるようになっています。一方、0 ~ 3 歳児向けの保育園 ( Bölcsőde ) では、 2.1 万人分の受け皿が不足。そのため、2019 年から段階的に新規で建設、既存保育園の拡張をし、2022 年にはすべての乳幼児が入れるようにします。( 現在の施設は計 4.9 万人分 )

おばあちゃんにも手当

両親が仕事に行っている間、おばあちゃん・おじいちゃんが孫の面倒を見る場合、育児手当 ” GYED * “ を支給。2020 年から開始見込み。詳細要件は不明です。

*GYED=Gyermekgondozási díj:  出産後に母親もしくは父親に給付される「 育児手当 」で、条件は過去 2 年で 365 日以上、正規就労し医療社会保険料等を納付していること。支給額は出産前の給与の 70 %。ただし、上限は最低賃金 x  2 x  70 %になっています。 ( 2019 年は具体的には 208,600 Ft / 月 ) 給付期間は、子どもが 2 歳になるまで。

おまけ:高校生には国外で無料の語学研修

首相が、新家族政策と一緒に発表した中には、9 年生、11 年生 ( 中学 2 年、高校 1 年に相当 ) 全員に、国外での 2 週間の語学研修、というのもありました。費用は国が全部負担。各年に 1 回ずつ、計 2 回。

数日後、人材省 ( 教育も所管 ) の大臣は、「 北京 」もありうると発言しています。

人口減少はどれくらい深刻なのか

ハンガリーでは、これまでにも各種の手厚い家族優遇政策がありました。しかし今回、これほど大胆な政策を打ち上げたのは、他でもない、人口減少が止まる気配がないため。そのうえ、人口の高齢化が進んでいます。このままでは生産年齢人口が減り、国の経済も大変なことになるという危機感が膨らんでいるのです。

図: ハンガリーの人口 1998~2018年 単位:万人

図 by Ako

人口は 1980 年代がピークで、 1070 万人程度でした。その後、少子化が進み、2018 年年初時点では 977 万人に。40 年足らずで 100 万人近く減ってしまったことになります。現在も、毎年 3 ~ 4 万人の速度で減少中。

欧州統計局 ( Eurostat ) の予想によれば、この調子でいくと 2080 年までにはさらに100 万人以上減り 869 万人へ。 ( 予想は 2016 年時点 )

その他、2017年の関連数字を見ると、次のようになっています。
婚姻数: 50 572 組
出生数: 91 577 人
合計特殊出生率: 1.49 人

ハンガリーの現政権は、移民は断固拒否の方針を貫いており、人口問題の解決は、あくまでも国内の出生数引き上げで図る所存です。2030 年までには、合計特殊出生率を 2.1 人に増加させるという野心的な目標を掲げています。

こうしたことから、今回の大胆な措置とりまとめに。国内のメディア Index.huの試算によると、大卒の女性が仕事を 3 年した後、8 年で 4 人出産、既存および新措置を全部利用した場合、10 年で 5 500万 Ft 分の支援を得られるとのこと。( 記事はこちら )

もっとも、上記のような「 8 年で 4 人出産 」というのはあくまでも一つの「 モデルケース 」。人生そんなに単純ではないですし、計画通りにもいきません。育児も大変。

そのため、今後、どれほどの人が 3 人、4 人と産む気になって、また実際に産めるのかは未知数です。支援プログラムの数々を見ると、結婚して、たくさん産んで、なおかつたくさん働いて初めて最大の恩恵を享受できるようになっています。また、既存措置と合わせて最も優遇されるのは中所得者以上です。

なお、野党らは、これは19 年 5 月に欧州議会選挙を控える中、今までのように「移民の脅威を煽り立てる」戦略が通用しないため、与党はバラマキ政治に出たと批判しています。

ABOUTこの記事をかいた人

鷲尾亜子

1997年よりハンガリー在住。日本とハンガリーでの新聞記者の経験を活かし、現在、Twitter では「 ハンガリーのニュース 」、また政治経済ニュースレター「 ハンガリー経済情報 」( 有料 ) を配信中。