ハンガリーの公的医療サービスは無料である反面、待たされる、設備が古い、医師や看護師が足りないなど悪いこともよく耳に入ります。
ただ、慢性疾患では、日本より手厚い支援のケースも。
1 型糖尿病の息子さんを持つブラニョさん。連載 7 回目は保険事情について綴っていただきました。
検診、入院すべて自己負担ゼロ
息子が 1 型糖尿病を発症したのは生後 11 か月のとき。連れて行ったのは国立のこども病院でした。( 我が家は夫がハンガリー人。夫婦で国家医療保険に加入しており、18 歳未満の子どもは自動的に扶養家族として被保険者扱いになります。 )
その時の診察や各種検査、3 日間の集中治療室、1 か月の入院治療はすべて「自己負担ゼロ」でした。
現在は3 か月毎に定期検診。そして 1 年に 1 度、病院で様々な検査を実施します。すべて、保険が 100 % カバー。
定期検診以外でも、時々、主治医にメールで問い合わせすることがありますが、それも無料です。
高価なインスリンポンプは 98 % 補助
次に、息子が毎日使用しているものについて、保険がどのようになっているかご紹介します。
主な機器と消耗品は以下の通りです。
( 1 ) インスリンポンプ本体
( 2 ) インスリンポンプの消耗品である「 注入セット 」( チューブと刺す針の部分、「 リザーバ 」 )
( 3 ) インスリン
( 4 ) 血糖値を測るキット 消耗品として検査チップ
( 1 ) のインスリンポンプ本体は、4 年毎くらいに新しい物に交換。
現在使用中のものを購入した際の国の負担額は 76.6 万 Ft ( 約 30.7 万円* ) で実に 98 %分! 私たちが支払うのは残りの 2 %で 5,080 Ft ( 約 2,000 円 ) でした。
( 2 ) のインスリンポンプ用消耗品である注入セット ( リザーバ ) は、1 回につき半年分 ( 10 箱 ) を購入。
90 % ( 計 22.5 万 Ft ) は保険がカバー。自己負担は 5 万 Ft 弱 ( 約 2 万円弱 ) でした。
体内に注入する一番大事な ( 3 ) インスリン自体は、自己負担ゼロです。
最後、( 4 ) の血糖値を測るときの検査チップ ( 1 箱 50 個入り、約 3000 Ft ) は、 1 か月 3 箱まで自己負担なし。
でも、血糖値測定を 1 日最低 7 ~ 8 回はする息子の場合は、それでは収まりません。足が出る分は自己負担ですが、所得に応じて補助金増額を申請できます。
※価格はすべて付加価値税 ( 消費税 ) 抜きです。Ft = ハンガリーフォリント。100 Ft = 約 40 円 ( 2018 年 10 月現在 )
こうしてみると、保険がなければ、年間 100 万 Ft ( 40 万円 ) は軽く超えている計算に。
ハンガリー人の月給手取り額は、平均 22 万 Ft 弱 ( 8.8 万円 )。* 保険の有難さをひしひしと感じます。
( * ハンガリー中央統計局 2018 年 1 - 6 月期の値 )
手厚い支援あってこそ
インスリンポンプは、ペン ( インスリン注射 ) と比較して多くの利点があります。
例えば、注入量の微調整が可能な点。その他、24 時間持続して基礎分泌注入および食後に追加注入ができること、プログラミングしておけることなど。
それでも日本であまり普及していない理由の 1 つは、保険制度の違いからのようです。結果として、インスリン注射と比較して高額になってしまうのです。
もちろんハンガリーでも、最初はペン療法というのが一般的。しかし、息子の場合は赤ちゃんの時に発症したため、初めから極少量でも調整可能なポンプ療法となりました。
ハンガリーの公的医療制度は現在、いろいろなことが問題になっていますが、息子の場合に限って言えば、大変助かっていると言えます。
次回は最終回。これまでの 10 年あまり、1 型糖尿病になったからこそ気づいたこと、自分として変わったなと思うところなどを綴っていただきます。