ハンガリー滞在中に大家とトラブルになりやすいのが、借りる側の事情による賃貸契約の途中解約です。
事前に予防するためには、まず契約書をしっかりさせておくことが大事。でも契約書がしっかりしていても揉めることが……
ブダペスト在住の《とんとんさん》が、まさにそのケースでした。
どんな不当な要求をされ、どんな風に解決したのか。他の方が同じような事態に陥らないよう、情報を共有してもらいました。
「24時間で出ていけ」
《とんとんさん》は 2021 年 11 月からブダペストに単身で赴任。市内の便利な場所にあるアパートは、22 年 12 月までの 1 年で契約しました。
ところが、3 月下旬にどうしても家族の事情で日本に 7 ~ 8 か月帰国することが決定。そのため、契約期間終了前に退去することに。
その一日後、奥さんから返事は、「 わかりました、問題ないです 」だったのですが……。
その数時間後、今度はご主人からメール。その内容はまったく違うものでした。
- こんな失礼な内容のメールを受け取ったことはない。24 時間以内に退去せよ。
しかし帰国の事情が事情なだけに、4日間の猶予を与える。 - デポジットは返さない。
- 12 月の賃貸契約満了になるまで残りの家賃を支払え。光熱費も支払え。
- ソファーを動かした分 43 万 Ft を支払え。( 《とんとんさん》は入居時に新しいソファーを入れたかったので、使用済みの備え付けのものは撤去してもらっていました )
- それができないなら《とんとんさん》を裁判で訴える。自分には社会的な地位がある ( その後のメールにて弁護士のアドレスが CC. に追加される )
確かに契約書には、借主側の過失で相当な理由がある場合は、大家は 9 日以内に立ち退き勧告を行えるとなっていました。
でも、「 4 日以内の退居命令 」は法律に則ったものではなく、途中解約は手続きにきちんと従った《とんとんさん》に落ち度はなかったはずです。
これまでの赴任地では大家とトラブルになったことは一度もなかったですし、今回も契約書に沿って連絡したので、突然の撤去命令や、裁判沙汰にされることなど想像もしていませんでした。
ハンガリーに一人で滞在していたため、身体的にも精神的にも怖くなりました。
直接対決せず会社に相談
《とんとんさん》は、まず会社の上司及びセキュリティ担当者 (*) に相談。
*セキュリティ担当者は、社員や外国人駐在員の滞在中の安全確保を任務としています。
外国人が多い職場のため、担当者は外国人が巻き込まれやすいトラブルの解決には経験も豊富だそう。専門知識も備え、必要に応じて弁護士や警察などともいっしょに動いてくれます。
今後はセキュリティ担当者が引き継ぐから、ということでした。
担当者は弁護士や警察と連携して、すぐに大家にハンガリー語の書面で連絡。その際、相手側の要求が契約書を逸脱して不当なものであることを説明。
加えて、これまでとんとんさんに家賃請求書を正式に発行していなかったことを挙げ、税務処理に問題があるようだとも指摘したそうです。
すると、これまで攻撃的だった大家は一転して軟化。家賃、光熱費、ソファー移動費用の請求は撤回の方向となりました。
しかし《とんとんさん》は、「 帰国直前の 3 月半ばまで住むのは難しいかも 」とセキュリティ担当者から言われました。
担当者からアドバイスがあったんです。こんな風に揉めた時は、自分の方に非がなくても少し譲った方が早く解決する、と。一時帰国も迫っているのだから、今もっとも大事なことは『 早く解決すること 』でしょうと。
本格的な裁判になってしまったら、仮に自分が正しいと信じていても最終的な解決にたどり着くのに 2、3 年かかるということも知りました。それに、もうここでは安心して眠れないし……。様々な状況を踏まえて、4 日以内に出ていくことを決意しました。
その後、《とんとんさん》は大急ぎで一時帰国の日まで泊まれる民泊を探し、ハンガリーに置いていく私物品を一時預ける貸倉庫を探し、荷物をまとめることに。
引越業者はすぐには応じてくれないので、荷物の運搬は同僚たちに手伝ってもらいました。
引き渡し直前にアパートの掃除をしてくれる方も探し、一日かけてピカピカにしてもらいました。大家に文句をつけられたくはなかったのです。そしてなんとか、退去通知をしてから 4 日で民泊に移動完了。
100 % 納得はしていないけれど
退去後のアパート引き渡しも、会社のセキュリティ担当者が引き受けてくれたため、《とんとんさん》はもう大家と顔を合わせずにすみました。
その後、大家から賃貸契約終了の通知が書面で到着。
そこには、これまで担当者が交渉してくれていた内容も反映されていました。
- もうこれ以上、当初賃貸契約終了の 12 月まで支払えと言わない
- ソファー移動費 43 万 Ft 請求しない
- 今後、光熱費も請求しない
- デポジットは返還しない ( 2 か月分 )
100 % 納得できたかというと、そうではないです。
こちらは悪くないのに、大変な思いをしていろいろ手配して、僅か数日で出ていかなければならなかったからです。最後の月の家賃も支払い済みでしたし。
大家を相手取って裁判にすることもできました。でも弁護士を雇う費用や時間、やり取りを続けなければならないというストレスとを天秤にかけたら、やはりやめようと思いました。
セキュリティ担当者も、自分の主張にこだわると長引く、と言っていましたし。今清算し、安心して一時帰国できることの方が大事と思いました。
未然に防ぐことはできた?
《とんとんさん》がこのアパートを見つけたのは、ハンガリーの不動産賃貸物件サイト。会社の外国人同僚のほとんどがそうしていたからとのこと。
このサイトは国内でも大手の1つのため、ここに掲載される物件自体が悪いというわけでもありません。
また、アパートの賃貸契約書での途中解約に関する規定は
- 1 か月前に書面で通知
- デポジットは返還なし
と、スタンダードなものでした。そのため、契約書に不備があったとも言えません。
契約書も英語で用意してもらい、大家夫婦自身も英語でコミュニケーション OK でした。
ただ、あえて言うのなら……
最初に大家に会った時、違和感というか印象があまりよくなかったんですよね。
高圧的というのか。私がハンガリーにきてまだ間もないため現地事情がわかっていないこと、若めの日本人女性ということで、甘く見られている感じでした。
今思うと、こういう動物的勘は大事にしておけばよかったのかもしれません。私は会社が守ってくれたのでよかったですが、こんな思いは他の誰にもしてもらいたくありません。学生さんには特に注意してもらいたいですね。
ハンガリーにきて、すぐに生活を落ち着かせたいという気持ちはありますが、アパート選びは慎重にしないと、後々大きなトラブルになりかねないと気づかされました。アパートを決める時は、しっかりとどんな大家であるかを見極める必要があると思います。
管理人から一言
途中解約についてのトラブルを防ぐには、契約書できちんと条件が規定されているか見ることがまずは一番大事。
そのうえで、契約する前にもう一度口頭で大家さんと確認しあうのが良いでしょう。
また、契約時に第 3 者に同席してもらうのもリスクヘッジになります。
新型コロナやその他の事情で、途中解約するケースを聞く機会も多くなりました。一方で、大家さんにとっては借主の自己都合で途中解約されることが一番困ること ( 不動産仲介業者に手数料を支払っている場合も多いため )。そのため確認作業は双方にとって良いことと思います。
不当な請求をされ困ったときは、弁護士の力を借りるのが一番です。が、それができない場合でも少なくとも第3者に入ってもらうことをお勧めします。
その場合、退居 1 か月前の連絡が必要であったため、❝ Notice of Intention to Terminate ( 契約終了意向の通知 ) ❞ を作成し、逆算して 2 月半ばに大家さん夫婦にメールで送付したのです。
その際、契約書に従いデポジット ( 家賃 2 か月分 ) は返却の要求はしないですとも書きました。