人口減少が止まらないハンガリー。政府は、出生奨励措置を次々に講じています。
今度は、不妊治療費の負担を大幅に軽減することを発表。理論的には、検査から出生まで自己負担ゼロ、まったくの「 無料 」も不可能ではありません。政府の取り組みについてお伝えします。
保険の適用
オルバーン首相は今年の年頭記者会見で、引き続き移民受け入れは No、人口増加のためにハンガリー人家族を可能な限り支援すると改めて表明。
その一環で、2 月 1 日から不妊治療にかかわるすべての検査、治療で使う薬類への国家健康保険適用率を100 %にすると発表しました。
結果として、不妊治療の最初から最後まで自己負担ゼロ、ということもありえることに。( 出所: Index.hu )
というのは、国は現在も、人工授精は 6 回、体外受精は 5 回まで保険適用としているからです ( * )。
* 人工授精 6 回以内、体外受精 5 回以内に出生に至った場合は、次も 4 回ずつ自己負担なしで行える等の細かい規定があります。詳細については、健康保険基金機構 NEAK 公式サイト を参照してください ( ハンガリー語 )。
治療で使われる薬 ( 排卵誘発剤など ) については、現在は最大 90 %カバー。これを 100 %に引き上げます。
ただし、もちろん、ハンガリーの国家健康保険に加入していることが条件。
そして、基本的には国立の医療施設での治療に限ります。これまで、民間クリニックでも国家医療保険基金と契約を結んだ場合は保険適用になっていましたが、次の項の通り、すべて国に買収されました。
生殖医療の「 国有化 」
並行して、国は、不妊治療施設も増強中です。
例として、2019 年 10 月には、ブダペスト市のセンメルヴェイス医科大学 ( Semmelweis Egyetem ) に新たな生殖補助医療センター ( Asszisztált Reprodukciós Centrum: ARC ) を開設。
そして12 月には、国内のプライベートクリニックのうち、保険適用契約を結んでいた 6 つのクリニックのすべてを買収。
それらも含め、国が管轄する不妊治療専門機関は、合計 12 に増加しました。
オルバーン首相は、生殖医療は国が管理すべきという考え。今後、民間事業者には新たな開設許可は与えない方針も示しています。
不妊治療クリニックを持つ既存の国立大学、病院
– センメルヴェイス医科大学( ブダペスト市 )
– セント・ヤーノシュ病院 ( ブダペスト市 )
– ペーチ大学
– セゲド大学
– デブレツェン大学
– ショモジ県カポシュ・モール教育病院
国が買収した民間クリニック
( ブダペスト市 )
– Forgács Intézet Egészségügyi és Szolgálató Kft.
– Kaáli Ambuláns Nőgyógyászati Intézet Kft.
– Várandós Egészségügyi Szolgáltató Kft.
– Sterilitas Egészségügyi Ellátó Kft. ( Dévai Intézet )
( セゲド市 )
– Kaáli REK Reprodukciós Központ Kft.
( タポルツァ市 )
– Pannon Reprodukciós Intézet Egészségügyi és Szolgáltató Kft.
目標は年間 4 000 人
政府は、こうした様々な措置は、より安価で、より迅速で、誰でも受けられるようにするためと説明。
これまでの制度では、いくら保険適用と言っても、国立施設のキャパシティーや予算に限界があり、受け入れは毎年 6 000 件程度でした。検査や治療の待ち期間も長いとされていました。
そうしたことから、保険適用がなくても民間クリニックを選択するカップルも。しかし、体外受精 1 サイクルは 100 万フォリント ( 約 36 万円 ) 前後が相場。そもそも受けられる人、続けられる人は僅かです。
政府は、金銭的な負担軽減と治療施設の増加で、2022 年には体外受精などによる出生数が 4 000 人に増加することを期待しています。( *政府はこれまでの国内の治療総数、出生に至った件数について発表していないため、これがどれだけの増加を意味するのかは不明。)
魔法の杖はなし
こうした一連の試みは、一歩前進であることは間違いないでしょう。
ただ、治療施設が増加したと言っても、残りの民間クリニックを入れても 25 施設程度。加えて、地方在住者にとってはアクセスも限られています。
政府試算によれば、国内の不妊カップルは 15 万組。そのうち何組が実際に治療を受けられ、そして出生まで至るかは未知数です。同時に、医療施設を急増させても、専門医師やスタッフの供給が追い付かないという事情もあります。
一方で、人口は毎年 3 ~ 4 万人のスピードで容赦なく減少中。
政府の様々な大盤振る舞い家族政策で、婚姻数は大幅に増加していますが、出生数増加にはまだつながっていません。人口減少をストップし、さらに増加させるというのは、それほど難しいということも表しています。
*1981 年をピークに減少。
この速度で減少すると、2070 年には 600 万人になると試算される。
出生数 : 81,341人
( 2019年 1 – 11月、前年同期比 1.5 %減 )
合計特殊出生率 : 1.49 ( 2018 年 )
*政府の目標は 2.1
婚姻数 : 61,979 組
(2019年1 – 11月、前年同期比 27.2 %増)
出所: ハンガリー中央統計局 ( KSH )