ハンガリーは、散策や外遊びが楽しい季節になってきました。一方で、草むらなどで、人や動物を咬んで血を吸おうと待ち構えているものもあり。
それは当地で「 クーランチ 」と呼ばれる マダニ。一部は病原体を持ち、脳炎やライム病など感染症を起こす恐れもあるため注意が必要です。
ハンガリー滞在・移住では必ず知っておきたいマダニの特徴や病気、また予防対策などについて「 上 」 ・ 「 下 」と 2 回に分けてご紹介します。
1. マダニとは ( 特徴や生息地 )
2. マダニが引き起こす病気
3. 予防ワクチン
4. 咬まれないようにするためには
5. 咬まれてしまったら
今回は、1 ~ 3 についてお伝えします。
マダニとは
マダニはその名が示す通り、ダニの一種。
幼虫は 1 ミリ以下、若虫は 1.3 ~ 1.5 ミリくらい。成虫になると 3 ~ 3.5 ミリの「 ゴマ粒程度 」になり、肉眼でもわかります。
拡大してみると…(これは、咬まれた後しばらくしてから気づいて取り除いたものです)
動物や人を咬んで吸血すると 1 センチくらいに膨れ上がります。
生息地は、中東欧などヨーロッパ全般からロシア、極東、北海道まで。ハンガリー国内では、西部、北部、ドナウ川周辺が多いとされています。
マダニが潜むのは、森、林、野原、畑。
私の夫は、いちご狩りで咬まれました。
近年では、ブダペスト市内でも緑の多い住宅街や公園で発見されることも。さらに散歩帰りの犬猫が持ち帰り、自宅の庭や家の中で見つかるケースも時々あります。
活動が活発になるのは、春先から秋にかけて。
動物や人が来るのを待ち構えるため、地面近くや、丈の低い葉の先端や裏側にいたりします。木に登って落ちてくることはありません。
蚊のように「短時間刺して終わり」ではなく、一度咬みついて見つからなければ数日~ 2 週間くらい血を吸い続けるそうです !
ハンガリー語 : kullancs ( クーランチ )
英語 : tick
マダニが引き起こす病気
マダニに注意すべきなのは、それらの一部が病原体を持っているため。
そのようなマダニに咬着されると、ウィルスが人や動物に伝播し病気になる可能性があります。
感染症には様々ありますが、ハンガリーでの代表例は
「 ダニ媒介性脳炎 」および
「 ライム病 」です。
いずれも 1 ~ 2 週間の潜伏期間があり、咬まれた直後に症状は出ません。
マダニは吸血している間に麻酔のようなものを出すため、咬まれたこと自体にしばらく気づかないことが多いのです。
病原体は「 ダニ媒介性脳炎ウィルス=TBEV 」で潜伏期間は1~2週間程度。
( 第 1 期 ) 病原体を持ったマダニに刺された人のうち 3 分の 1 程度に、インフルエンザに似た発熱、筋肉痛、悪寒、倦怠感、食欲減退、吐き気などの症状が 5 ~ 14 日間出ます。
( 第 2 期 ) 第 1 期の症状がいったん回復した後、 5 人に 1 人程度がなります。( 最初に刺されてから 3 ~ 4 週間後くらい。 )
病原体が全身に拡散するため、ひどい頭痛、高熱、吐き気、嘔吐、めまい、構語障害、歩行不能、自律神経失調、などが出現。こうした症状は 1 ~ 3 週間続き、病院での治療が必要です。
(第 3 期) 感染から数か月~数年を経て慢性期に移行。
致死率は 1 ~ 5 %ですが、 3 ~ 6 割の患者には後遺症 ( 頭痛、集中力減退、無気力、鬱状態など ) が残ります。
※稀ではありますが、マダニから感染したヤギ、乳牛などの未加熱原乳を飲み感染した報告も過去にはあります。人から人への感染はなし。
ダニ媒介性脳炎と同様に、第 1 期はインフルエンザと似た症状。
感染すると咬まれたところが腫れ、それを囲むように直径 5 ~ 10 センチの赤い輪が出るのが特徴。(「 遊走性紅斑 ( ゆうそうせいこうはん ) 」と言われます。)
ただしこの症状が現れるのは患者の 6 ~ 8 割で、全員ではありません。
第 2 期は病原体が全身に拡散するため皮膚症状、神経症状、筋肉痛、関節痛などの症状。
そして第 3 期は慢性期になり、重い慢性関節炎、慢性萎縮性肢端皮膚炎、慢性脳脊髄炎などが生じます。抗生物質で治療します。
国内での発生数
このように病気についてお伝えすると、「 外に出て歩くのも怖い! 」となるかもしれませんね。
でも、「 マダニに刺された = すべて病気になる 」ではないので、そこまで神経質になる必要はないでしょう。( 刺されないための予防策については「 下 」でお伝えします。 )
いちご狩りで咬まれた夫も「 赤い輪 」ができて心配しましたが、発熱などの症状は全くなく、10 年以上経った今もなにもありません。
実際どの程度なのか、具体的な発生率などを以下、見てみましょう。
まず、病原体を持つマダニの割合。
ハンガリー国内でダニ媒介性脳炎の病原体を持つマダニは、成虫の 0.05 %とされています。
一方、ライム病の病原体を持つマダニは、欧州平均で 12 %。最も汚染された地域では 20 %となっています。
また、病原体を持つマダニに刺されても、かならずしも発症するわけではありません。
ハンガリー国内での 2007 ~ 2016 年に確認された発症数は下図の通り。人口 10 万人あたりにするとダニ媒介性脳炎は、0.33 ~ 0.7 人。ライム病は 6.1 ~ 23 人と少ないことがわかります。
ハンガリー語 : Agyvelőgyulladás ( アージヴェル―ジュッラダーシュ )
英語 : Tick – borne encephalitis ( TBE )
【 ライム病 】
ハンガリー語 : Lyme – kór ( ライムコール )
英語 : Lyme disease
予防ワクチン
マダニ媒介の感染症に有効なものとしては、予防ワクチンがあります。
アウトドアが好き、庭や畑仕事をするという人には推奨されています。
ただし、ワクチンは『脳炎』に対してのみ有効です。
ライム病に対するワクチンはなく、発症した場合は主に抗生物質治療となります。
ハンガリー国内で接種可能な予防ワクチンは、次の 2 種類 ( 成分は同じ ) 。処方箋が必要です。
いずれも大人用 ( Adults、0.5 ml ) の他に、子ども用 ( Junior、0.25 ml ) があります。
✔ FSME Immun ( Pfizer 製造 )
大人用 9,762 Ft ( 16 歳~ )
子ども用 9,965 Ft ( 1 歳 ~ 15歳 )
✔ Encepur ( GSK Vaccines 製造 )
大人用 9,863 Ft ( 12 歳 ~ )
子ども用 8,994 Ft ( 1 歳 ~ 11 歳 )
※ Ft = ハンガリーフォリント 100 Ft = 約 43 円
価格は hazipatika.com より 2018 年 4 月 15 日現在。
接種は 3 回、同じものを同量ずつ行います。
2 回目は 1 ~ 3 か月後、3 回目は 5 ~ 12 か月後。
その後 3、5 年毎に追加免疫のための投与をします。2 回目については、1 回目から 2 週間後に短縮して早めることも可能です。( 下表参照 )
表: 予防接種スケジュール
任意接種のため、国の健康保険に加入していてもワクチンは適用外です。
ただし、公的医療機関で接種する場合、自己負担はワクチン代だけになります。
一方、外国人が多く利用するプライベートクリニックでは、ワクチン代と予防接種コンサルテーションなど全部含めて、1 回につき 2.2 万 ~ 3 万フォリント程度。( 2018 年 4 月 18 日に電話で Rózsakert Medical Center と FirstMed に問い合わせ )
予防接種は、マダニシーズンが始まる春から始めるのではなく、1 回目、2 回目はできれば冬の間に。そして 3 回目を、夏か秋にするよう推奨されています。夏に初回投与の場合、効果が期待できるのは来シーズンからです。
なおワクチンの副作用として、特に 1 回目の接種後に発熱、頭痛、吐き気などが起こることがあります。そのため、体調が万全でないときは無理をしないでください!
次回は咬まれないための工夫、それでも咬まれてしまったときの対処法について、体験談を交えながらお伝えします。