ハンガリー政府は、2025 年から首都ブダペスト市内の Airbnb などが提供する民泊サービスへの規制を強化します。規制の中味や、その背景、さらに予測される影響についてまとめました。
2025 年から厳しく
政府は 2024 年 10月下旬、ブダペスト市内の短期賃貸向け施設に対する規制を強化する計画を発表しました。こうしたサービスの増大を抑制するのが狙い。国会は年内に関連法改正案を採択し、25 年 1 月から施行になる見込みです。
計画のうち、主な措置は以下の 2 つです。
- 民泊施設への年間定額税を15 万 Ft / 室とする。2025 年 1 月から
現在は 3 万 8,400 Ftで、4 倍近く引き上げられることに。 ( 100 Ft =約 41 円、なお民泊事業者には、その他に所得税等支払う義務もあり ) - 民泊事業の新規登録を 2025 年 1 月 1 日 ~ 2026 年 12 月 31 日までの 2 年間は停止する。
この規制は、前年に観光客らの宿泊日数が 200 万泊を超えた自治体に課せられます。現時点でこれに当てはまるのはブダペスト市のみ。それ以外の地方の市や村では、制度は現行のまま変わりません。
6 区では全面禁止 !?
国の政策に加えて、注目されるのはブタペスト中心部の 6 区です。
6 区は 24 年 9 月、国内の自治体としては初めて、区内での短期賃貸サービスの是非を問う住民投票を実施。結果は反対が 54 %でした。この結果に従い、ショプロニ・タマーシュ区長は 26 年 1 月 1 日から全面的に禁止すると発表し、近くそれに関する条例を区議会に提出する見込みです。
政府が規制計画を発表したのはこの住民投票の後だったため、6 区がまとめる条例に影響するのか、また影響するとしたらどのような形になるのかが関心を集めています。
6 区は、西駅、アンドラーシ通り、国立歌劇場 ( オペラ座 ) 、オクトゴン、リスト音楽院、恐怖の館博物館などがあるため訪問客には人気のあるエリア。現在、2,200 戸あまりが民泊サービス提供者として正規に登録されており、区内の住宅全体の 7.6% を占めます。
なぜ民泊が問題に
政府は、ブダペスト市で近年住宅価格と家賃が著しく上昇しているのは、短期賃貸用アパートの急増が背景にあると見ています。原因はそれだけではないでしょうが、政府は主要因の 1 つと主張。その結果、市内ーー特に中心部ーーではアパートを買うのも借りるのも手が届かなくなるという深刻な状況になっているとしています。
政府は、25 年から成長率を好転させるための経済行動計画の柱の 1 つに住宅政策を含めていて、「手ごろな価格で住宅を購入 / 賃貸 」できるようにするのが目標。そのためにも民泊施設は当面、これ以上増やすべきではないと考えています。
では、民泊用アパートはそんなに増えているのでしょうか。
ハンガリー観光促進庁 ( MTÜ ) によりますと、23 年末の時点で、ブダペストで登録されている民泊施設は約 1 万 3000 件、2 万 6000 居室。ベッド数は 5 万 8000 床。
23 年の 1 年だけで、施設数は 32 % も増加しました。特にペスト側中心部の 5、6、7、8 区に集中しており、これらの区での施設数は全体の 78 %を占めています。
市内の年間の民泊宿泊日数は 600 万泊となり、ホテル等商業宿泊施設の 800 万泊に迫る勢いに。観光促進庁は、この割合は近隣のウィーン市やプラハ市と比較しても著しく高い水準と指摘しています。( ウィーンはホテル 1500 万泊に対して民泊は 500 万泊、プラハはホテル 1400 万泊に対して民泊 400 万泊。 )
民泊施設を巡っては、建物内の住民から騒音やゴミ出しなどで苦情が出ることも多く、6 区が住民投票実施を決定したのはそのような事情もありました。
民泊規制強化の影響は
政府の計画では民泊施設の新規登録の停止は 25 年 1 月から。これは逆に言えば 24 年 12 月 31 日までは可能ということになります。そのため駆け込み登録もありえ、施設の数自体は現在から急減することはないと見られています。
ただ、6 区で実際に 26 年 1 月から全面禁止となった場合は、2,200 戸あまりが消えることに。これは、現在のブダペスト市内の全民泊施設の 17 % 程度に相当します。そうなると供給数が減る一方で、観光客の増加傾向はしばらく変わらず需要増大の見込みのため、料金押し上げにつながりそうです。
しかも、需要が衰えなければ、増税分を料金に転嫁する民泊事業者も増えるはず。もちろん、値上げしすぎるとお手頃感がなくなりホテルに客が逃げてしまいかねないので、その辺りはバランスを見て、となるでしょう。
一方、6 区では住宅市場に既に影響が出ているようです。不動産仲介サイト大手 Ingatlan.comの運営者によりますと、10月半ばまでに売りに出された 50 平米未満*のアパートは 200 件近くとなり、8 月時点の 130 件から急増。これらのアパートが民泊として使われていたかについての情報はありませんが、この急増ぶりは住民投票の結果と関係があると見られています。
並行的に、売値に関しては平米当たり平均 103.7 万 Ftと、同じ期間に 5 %低下。逆に隣の 7 区ではこの間、若干の価格上昇がみられました。( 出典: Népszava )
もっとも、実際の影響を知るにはもう少し待つ必要があるでしょう。『ハンガリー暮らしの健康手帖』では民泊や住宅市場の動向に注意し、随時情報を更新していきます。