ハンガリー在住 3 年目のまじゃおらさん ( 30代、女性 ) は、当地で第 2 子を妊娠、出産しました。その体験談を綴った連載の最終回は、出産後のお話です。ハンガリー特有の Védőnő ( ヴェードゥーヌー ) と呼ばれる人たちからどんなサポートがあったのか詳細に綴っています。最後に、まじゃおらさんがハンガリーでの妊娠、出産を検討されている方へのメッセージもあります。
年齢:30 代
保険:ハンガリーの国家医療保険に加入 ( TAJ kártya あり)
在住地:ブダペスト
妊娠、出産経験:日本で有り、ハンガリーでは初
ハンガリー語レベル:初級 ※英語での日常会話は OK
第2子出産年:2023 年
Védőnő って何?
まじゃおらさんが具体的にどのようなサポートを受けたか、の前に、そもそも当連載の中で何度も登場している Védőnő ( 以下、ヴェードゥーヌー ) とはいったいどんな存在の人なのでしょうか。日本語で一番近い訳は『 保健婦 』さん。
日本でも産前、産後に保健師 ( または助産師等 ) による面談や自宅訪問の支援を受けらますね。それに似ていますが、違うんです!
実は、ハンガリーのヴェードゥーヌーの制度は国際的にもユニークで、100 年以上続く歴史があります。
当地では、保健 ❝ 婦 ❞ と今でも言われています。女性限定職ではないもののほとんどが女性です。なぜ女性が対応しているのかというと、ケアサービスの対象者が「 母親 ( 妊婦 ) と子ども 」であることが大きいようです。
日本の保健師さんは「乳幼児から高齢者まですべての年齢の人を対象」としているのに対し、ヴェードゥーヌーは「妊婦、新生児・乳幼児~青少年の子どもたち」の健康の保護と改善に取り組む専門職。特に、妊産婦のケアや子どもの発育、発達状況を定期的に確認し、『 家族 』と継続的に関わっていきます。
そんなヴェードゥーヌーになれるのは、4 年生大学にあるその専門科の卒業資格を有する人のみ。産婦人科、乳児・小児医学といった医療知識に加え、看護学、栄養学、教育学なども学んだスペシャリストなんです。
そのため、予防医療のアプローチだけではなく、何か問題がある時には、医療や教育、福祉に関わる専門家たちと連携。身体的健康管理に加え、社会的・精神的健康などに関わる様々な相談窓口となります。
身近な例で言えば、幼稚園入園や学校生活にあたっても相談できるのがヴェードゥーヌーなんです。公的医療保険に加入していれば、誰でもすべて無償でサービスを受けられます。
妊娠した場合は、10 週目あたりでブダペストなら各区、地方なら各地域の Védőnői szolgálat ( 保健婦サービスセンター ) を訪れ、担当ヴェードゥーヌーから Várandósgondozási könyv ( 妊婦手帳 ) を受け取ります。担当者は、原則、妊婦の居住地 ( 登録している住所 ) で決まっています。
ハンガリーの妊婦手帳は、主に産婦人科医との連携で使うもの。日本の母子手帳と違うのは、母親が記入、記録するものではないという点です。
妊婦が関わる医師たち ( 歯科医含む ) の報告が記載されており、それらや様々な検査結果などをみて、ヴェードゥーヌーが総合的に健康管理をサポート。( 妊娠中期以降になるとヴェードゥーヌーの健診時に胎児の心音確認もあり )
妊娠 20 週目前後には、ヴェードゥーヌーが自宅を訪問し、生活環境の確認 ( 新生児を迎える家庭環境にしていくお話など ) をします。
今回、まじゃおらさんには、産後の関わりが具体的にどんなものだったかを教えてもらいます。
産後1か月は特に手厚いケア
退院の翌週に、私の担当ヴェードゥーヌーが自宅にやってきました。入院していた病院のヴェードゥーヌーが私の担当ヴェードゥーヌーに出産状況や退院について連絡。その後、担当ヴェードゥーヌー ( 以下、V さん ) と連絡をとり、 訪問日を決定した流れです。
生まれたという報告だけは、出産後すぐにしてくださいねと言われていたので、Vさんに即メール。そこから産後最初の自宅訪問までの間にVさんは生まれた子に関わる行政的な書類の手続き準備などをしてくれました。例えば、赤ちゃんが今後お世話になる Gyermekorvos ( 小児科の家庭医 ※登録住所で決まっています ) にも連絡し、情報共有など。
その他、Vさんからは事前に「ベビースケール」を自宅に用意して生後6週目ぐらいまでは、細かく赤ちゃんの体重を測ってほしいと言われていました。
ベビースケールって買わないといけない?レンタルできるの?それもわからなかったので、聞いてみると保健婦サービスセンターもしくは薬局でレンタルできるとのこと。各所で台数に限りはあり、値段も多少変わりますが、1 か月 4,000Ft 程度でした。
自宅訪問では
- 赤ちゃんの体重測定や身長、頭囲などの測定
- 排尿や排便の状況
- 生まれた時の様子
- 寝方、ミルクを飲む状況
- ビタミンK の摂取状況 ※薬局で買って飲ませるように言われます。退院時に処方箋を出してもらいました。
- うつ伏せ練習の状況
- 母親のメンタル状況
を細かく確認していきます。
驚いたのは、生後 1 か月以内の新生児でもうつ伏せ練習の状況をいつもチェックされたこと。一人目は日本で産みましたが、ここまで積極的に新生児期からうつ伏せ練習を言われることがなかったです。
1 日に 5 回ぐらいはうつ伏せを試してとVさんに言われていたので、頑張りました。一人目の時は、そこそこ体重が増えてからうつ伏せを始めたので、本人もなかなか大変そうでした。結果的に見ると二人目は早めに始めてよかったかもと思っています。
赤ちゃんのことだけでなく、「母親も寝られているか」「父親はどれぐらい育児や家事に関わっているか」「悪露の具合」など、母の心身の健康も必ず聞いてくれました。その他、ハンガリー語のみですが、赤ちゃん育児に関する手引きをもらい、いつも気にかけてくれる人がいると感じられる環境でした。
子どもの排便状況が良くなくて相談した時は、事前に小児科医と連携してくれているので、お薬をすぐに処方してもらえました。
生後 1 か月以降はセンター訪問
新生児期を過ぎたら、Vさんと会う頻度は月1回に。自宅に来てくれたこともありましたが、基本は保健婦センターへ赤ちゃんを連れて行きました。
生後 12 か月までは毎月、そこからは 15か月、18か月、 24か月 ( 2 歳 )、2 歳半、その後、3歳以降は 1 年毎に面談。またワクチン接種時期は、小児科医も保健婦センターに来ており、ワクチンと健診を同時に行います。
二人目なので、ざっくりとした産後の流れはわかるんですが、ハンガリーでの出産は初めて。どこで何が手に入るといった基本的なことからわからなかったりしたので、定期的に V さんと会って質問できるのは有難かったです。
新生児期以降も担当者 ( 諸事情で変わることもありますが、基本は同じ人 ) が長期的に子どもの成長を見守ってくれるのは心強いですね。
日本だと集団健診が主だったので、個人のやりとりにハードルがあるように感じていましたが、担当者がついて頻繁に顔を合わせられるハンガリーのヴェードゥーヌー制度はとてもいいなと思っています。
医師ではないですが、しっかりと医学の知識なども持って対応してくれるので、医療関係の相談などもしやすく、安心感あります。
母子手帳 ( ワクチン手帳付き ) 、着替えやオムツなど、日本の健診と持ち物は変わりませんが、一つだけ「これは何?」というものが。
それは、Pelenka anyag ( ペレンカ アニャグ ) 。直訳するとオムツの生地、「布オムツのこと?」と思ってしまうのですが、違います。
あかちゃんを包み込めるようなサイズの「ガーゼの布」を指します。診察台やベビースケールに敷いたりして使うので、健診時の必須アイテムです。ベビー用品店だけでなく、ドラッグストアなどでも売っています。
ハンガリーで妊娠、出産を検討されている方へ
異国の地での妊娠、出産をするという事、大きな不安があると思います。私もそんな一人でした。
「案ずるより産むが易し」とは上手く言ったもので、あらゆる場面で本当にたくさんの方々に助けていただき、心配や不安は周囲の優しさで薄れていきました。
先ずは当サイトを含め、ハンガリー在住の邦人同士が助け合う雰囲気があることにも、とても安心しました。
そして、ハンガリーの方々が妊婦や小さい子どもに対して本当に優しいんです。バスやトラム、スーパーで。近所のおじさん、おばさん。
皆さん気さくに「いま何ヶ月?」「ここに座りなさい!」と優しく接してくださります。現在、2人の小さな子供と暮らしていてもハンガリーの子連れ優先を自然にしてくださることに助けられています。
ここでの生活では、そんな国民性?を身近に感じられます。出産までの間に数々の珍事件も起こりましたが、『ま!そんな事もあるよね (笑) けど、ここで産みたい!』という気持ちになっていきました。
両家家族が近くにいないという状況だった私たち。出産までいろんな方の力をお借りしながら、共に歩んでいくという貴重な経験ができ、感謝しています。
妊娠・出産に限らずですが、あなたも遠慮せず、家族、友達、周りの方を頼ってみてくださいね。
ハンガリーで出産を予定されている皆さんが無事にその時を迎えられるよう心から祈っています。
関連記事
Hungarikum Bizottság : Magyar Védőnői Szolgálat, mint nemzetközileg is egyedülálló, tradicionális ellátási rendszer