ハンガリー料理でもっとも有名なのは Gulyásleves ( グヤーシュスープ、もしくは単にグヤーシュ )。牛肉をパプリカ粉でじっくり煮たスープは味わい深く、日本人の口にもよくあいます。
そんなグヤーシュを自宅でも作ってみませんか? 実は意外に簡単で、カレーを作るくらいの気軽さでできるのです! レシピと、グヤーシュにまつわる話をお届けします。
もくじ
失敗しないためのポイント
グヤーシュの作り方は、ハンガリー人の数だけあるのではないかと思うほど千差万別。食材や調味料を入れる順番、食材の切り方や分量などはまさに人それぞれです。
逆に言えば、「 こうしなければならない 」という厳しいルールはありません。
そもそもハンガリーではキャンプや屋外イベントの定番料理でもあるくらいなので、かなり大雑把で大丈夫。
ただ、管理人の経験から、いくつか押さえておくべきポイントはあります。これをしないと味がいまいちになりますので、まずはご確認ください。
- ケチらない
材料をきっちり計量する必要はありません。ですが、ケチると間延びした味になってしまうのが、玉ねぎ、にんにく、パプリカパウダー、牛肉です。玉ねぎとにんにくは、カレーをつくる時よりかなり多めの感覚で。パプリカパウダーは、「 え、こんなに入れるの? 」と目を丸くするくらいが適量です。多く入れるとスープの舌触りもサラサラから濃厚に。 - パプリカパウダーはハンガリー産を
これだけはどうしてもハンガリー産を使っていただきたいです! ハンガリーではどこででも買えますが、日本ではさすがにそうはいきません。ですが、ネット通販はあるようです。日本のスーパーに置いてあるようなパプリカ粉は、残念ですが、味わいの深さ、アロマがまったく足りません。 - パプリカパウダーを焦がすのは厳禁
パプリカパウダーを入れるタイミングは人によって違いますが、焦がすのだけは絶対にいけません。焦がしてしまうと苦くなり、その後はもうどう逆立ちしても修正できないのです。焦がさないためには、お鍋に水分、もしくは脂分があることが前提です。この記事で紹介するレシピでは、失敗しないような手順になっています。 - 急がない
ハンガリー産の牛肉はとても硬いのです!! 調理時間は少なくとも 3 時間は見てください。柔らかくなるまで、日本の牛肉の 2 ~ 3 倍はかかります。また、お肉の塊を切るのにも、思ったより多くの時間が必要です。そのため、平日の忙しい時の夕食作りには不向き。慌てず急がず、おおらかな気持ちになれる時に作りましょう。 - できれば多めにつくる
1 人、2 人暮らしの方でも、できれば最低 4 人分くらい作ってください。少量ではなぜかあまり美味しくいきません。温め直しても味は落ちずにむしろ増すので、ぜひ多めに作り、冷蔵保存を。
材料
食材
調味料一式
- 牛すね肉 ( marhalábszár )* … 500g ➞ ハンガリー産なら、一口大よりも、その半分以下くらいにかなり小さく切るのがお勧め。調理時間の短縮につながるため。
- 玉ねぎ ( vöröshagyma ) … 最低 2 ~ 3 玉 ( 200g) ➞ みじん切り
- ニンニク ( fokhagyma) … 最低 3 カケ ➞ みじん切り
- パースニップ ( fehérrépa )* … 1 本 ➞ 一口大
- にんじん ( sárgarépa ) … 1 ~ 2 本 ➞ 一口大
- トマト( paradicsom )** … 1 個 ➞ ざっくりさいの目切り
- パプリカ ( paprika )** … 1 個 ➞ ざっくりさいの目切り
- じゃがいも ( krumpli ) … 3 個 ( 300~400g ) ➞ 一口大
.
.
【調味料】 - パプリカパウダー ( fűszerpaprika, 通常のもの。 édesnemes や csemege 、pirospaprikaという表示。くれぐれも辛いのと間違えないように!) … 最低大さじ 2
- パプリカパウダー・辛口 ( fűszerpaprika, 辛口はcsípős、erős という表示 ) あくまでもお好みで小さじ半分 ~1
- 塩 (só) … 大さじ 1 ( 加える水の量やお好みにより加減してください )
- コショウ ( fekete bors ) … 小さじ1
- ベイリーフ ( babérlevél ) … 2 枚
- キャラウェイ( fűszerkömény ) … 小さじ1 。ここでは粉末状 őrölt fűszerkömény を使用。表示は kömény のみになっていることも多いです。
【その他】
◎植物油 ( növényolaj ) … 大さじ 2。「コク」を出したい方は豚背脂 ( sertészsír ) を使いましょう。またさいの目切りなど適当に小さく切ったベーコン( szalonna ) をじっくり炒めて脂を出すのも良いです。
◎水 ( víz ) … 1 リットル前後 ( 具材がかぶるくらいの量 )
.
*fehérrépa ( 直訳は白ニンジン ) はハンガリー料理では欠かせないセリ科の根菜。わずかな苦味が料理全体にアクセントを与え重層的にしてくれます。日本では入手しにくいので、セロリで代用を。
**パプリカとトマトは、あれば味に深みを与えてくれますが、なくても大丈夫。
さぁ作ろう!
※倍量で作っています。
☆ 本格的なグヤーシュには csipetke / チペトゥケと呼ばれる、すいとんミニチュア版のようなものが入っています。小麦粉と卵、塩少々をこねて最後にスープに入れて茹でるだけのものですが、ここではレシピをより簡単にしたいため省略します。なくても十分美味しいです!
グヤーシュっぽさが足りない時の助っ人
味になんとなく深みがないなと思った時は、塩、コショウ、パプリカパウダーを入れてみてください。
その他、手っ取り早い助っ人には、『 固形グヤーシュスープの素 ( gulyásleveskocka ) 』や、『 グヤーシュクリーム (gulyáskrém) 』もあります。塩も元から入っていますので、使う際は塩分が強くなりすぎないように注意してください。
辛いのがお好きな方は…
辛いのがお好きな方は、スープ自体を辛くするよりは、食べる際に辛味を足すのがお勧めです。
ハンガリーのお土産としても人気なパプリカペーストにはいくつかのブランドがありますが、中でもメジャーなのは Univer 製。
普通のは Édes Anna ( スィート・アンナ* ) 。加えて中辛バージョン Erős Pista ( ストロング・ピシュタ* ) 、さらに激辛バージョンHaragos Pista ( 怒りのピシュタ ) があります。味見しながら足して行ってください。
*アンナは女性の名前なので瓶にも女性の絵が描かれています。ピシュタは男性の名前イシュトヴァーンの愛称なので、男性の絵が描かれています。
さらに、ハンガリー人の多くが好きなのは生の激辛パプリカ。
レストランでグヤーシュを注文すると、たいていはこのスライスとパプリカペーストが添えられて出てきます。
一番美味しいグヤーシュはどこに?
グヤーシュは現在、国を代表する Hungarikum ( フンガリクム )* の1つですが、 もとは puszta / プスタと呼ばれるハンガリー大平原の牛飼いたちの料理。
農作業や放牧の合間に、または地平線の向こうに沈む雄大な夕陽でも見ながら、大鍋で木製スプーンでかき混ぜながらゆったりと作っていたものです。
* ハンガリー政府は2012年以来、国を代表する価値のあるもの ( 人や物、文化、習慣、行事 ) を「 フンガリクム 」として認定しています。選定は、「 フングリクム委員会 」が行っています。
こんなルーツがあるためでしょうか、レストランで上品なお皿に盛られて出てくるようになった今日においても、「 あそこのレストランのグヤーシュは最高だ!! 」という話はあまり聞かず。
むしろ、ハンガリー人の多くにとって一番おいしいのは、どこかの家で作ったり、屋外で作ったりした素朴なものなのかもしれません。
試しに管理人のハンガリー人夫に美味しかったグヤーシュはどれだったか質問したところ、「 たくあんありすぎるけれど、あえて言うならティサ川にカヌーキャンプに行った際、川岸でみんなで作ったもの 」と返ってきました。
煮込んでいる間、子どもたちは遊びまわり、大人たちは飲みながらお喋りを楽しみ……そうして出来上がって一緒に食べるスープはやっぱり美味しいんですね。
おまけ ☆ 自由な発想で
管理人が試してみて意外に美味しかったのが餅入り。
お雑煮ハンガリー版とも言いましょうか、お餅のほのかな甘みとグヤーシュの深い味わいが絡まり、絶妙な味わいでした。
ポイントさえ押さえておけば、こんなグヤーシュもありと思います!!
実際のところ、ハンガリーには hamis gulyás ( 偽グヤーシュ) と言われるものがたくさん存在します。
それは、牛肉の調理時間がかかるため豚肉にしたり、まったくお肉を入れなかったり、お豆にしたりといろいろ。
最終的には美味しければなんでもOK。気軽に、自由な発想でグヤーシュ作りを楽しんでみませんか?