息子と 1 型糖尿病 ( 3 ) 病気とのつきあい方

赤ちゃんの時に 1 型糖尿病を発症した息子さんを持つブラニョさん。今回は、治療の基本的な考え方をご紹介。

また、ガチガチに管理して糖尿病にすべてが支配されていたような毎日から、クオリティをモットーに、うまくつきあえるようになった経緯をお伝えします。

2 ~ 3 時間毎に管理

インスリンポンプ。 VC が血糖値、CH が摂取する炭水化物量。これらの数値を入力すると、自動でインスリン投与量を調整してくれます ( 写真撮影時は 投与量 2.150 E ) 。 Photo by ブラニョ

糖尿病になった場合、毎日、どんなことをしているの ? とまず思われることでしょう。

治療の基本は、血糖値のコントロール。

血糖値は炭水化物を摂取すると上昇します。通常であれば、体内からはインスリンが出て血糖値を下げますが、息子の「 1 型糖尿病 」はインスリンそのものがほとんど作れない、もしくはまったく作れない病気。そのため、インスリンを外から補います。

投与のためにうちが使っているのは「 インスリンポンプ 」注入量を細かく設定できるところが最大の利点。注射器のような「 ペン 」ではここまではできません。

インスリン注入では、「 ベース ( 基礎 ) 」と「 追加 」という 2 つの方法を組み合わせます。

ベース 」は、 24 時間常時少量ずつ体内に入れるもの。インスリンは食べていなくても消費されるためです。

もう 1 つの「 追加インスリン 」は、食事前に別途、入れるもの。食べる前に血糖値を測り、「 今はこの値、これから 〇〇 グラムの炭水化物を摂取するので xx量のインスリンを入れてコントロールしよう 」というものです。

血糖値を測るのは毎日、最低 6 回。朝起床後 ( 朝ごはん前 ) 、10 時のおやつ前、お昼ごはんの前、 3 時のおやつの前、晩ごはん前、就寝前です。

インスリンの効果持続時間は 2 ~ 3 時間。大量に投与して 1 日持たせる、ことはできないのが難しいところです。

面白いのは血糖値の単位が、ハンガリーと日本では違うこと。

ハンガリーではミリモル・パー・リットル ( mmol/L ) 、日本ではミリグラム・パー・デシリットル ( mg/dL ) 。前者を 18 倍すると、後者の数値になります。センチとインチのようにややこしいですが、ポンプで設定可能なので戸惑うことはないです。

訪れた転機

2 歳のとき、一時帰国を終えハンガリーに戻る日。飛行機での移動や時差を考え、食事の時間や量をあらかじめ計画。 Photo by ブラニョ

疾患以来、最初の 1 年は、どの食材にどれくらい炭水化物が入っているのかを細かく計算して割り出し、徹底的な食事管理を行っていました。

あの頃は、常に台所に立ってご飯を作っている感じでした。

旅行は、自分で食事を作れなくなるの論外。外食もなし。息子と数時間公園に遊びに行くのでさえ、食事と時間管理が頭から離れませんでした。

現在も、炭水化物量を割り出すための計量はしています。でも昔ほどキチキチではありません。

それは、食材ごとの炭水化物量が既に頭にインプットされているというのも大きいですが、大きな転機になったのは、息子が 2 歳のとき。一時帰国をして、日本の専門医を受診したのです。

ハンガリーではどのような指導を受け、管理しているか説明したところ、先生からの第一声は、

それは古いやり方ですね

だったのです。( 笑 )

子ども時代に行き過ぎた管理をすると、精神的な影響も与え、後で過食、拒食につながりかねないとのこと。

そのため、クオリティをモットーにするよう助言されました。もちろん常識的な範囲での節度や目安は必要ですが、過度な制限はかけずにインスリン投与量で調整しましょうと。

その時、今までの荷が一気に肩から降りた気分でした。

同時に、パッと目の前が開けました。

ガチガチにやっていた私は、明けても暮れても考えることは血糖値や食事のことばかり。糖尿病がすべての中心でした。

でも先生の話を聞いてからは、病気は人生の一部ではあるけれどすべてを支配するものではなく、息子も私もうまくつきあいながら生活をしていけるような気持ちになれたのです。

大事なのは経験

炭水化物の量のみに捕らわれてしまうのが良くないのは、他にも理由があります。

それは、インスリンがうまく効かないときは、食事の他にも次のような要因が考えられるからです。

・ポンプチューブに空気が入ってしまい、インスリンが少なくしか投与されていない。
・風邪など、体調悪いとインスリンが効きづらい。
・からだの成長等で、炭水化物の量に対する適正インスリン量が変化する。
・フロント ( 高気圧、低気圧など気圧が変化するとき ) の影響。
・刺したところからのインスリン吸収が悪い。( 同じところに刺していると吸収が悪くなる。 )

息子の場合は、5 ミリモル ( 90mg/dL ) というのが適切な血糖の水準。

10 になったら気をつけよう、でも 10 - 11 ならインスリンを追加投与すれば数時間後には下がるかな、 13 - 14 なら警戒レベル。

こういうことも、自分で「 感覚 」として掴めるようになってきます。

血糖コントロールは、教科書通りにいかないことが多々あります。

個人差もありますし、同じ人間でも日によって違うのです。そのため、経験を積んでいくことこそがなにより大事と思います。

次回 『 息子と 1 型糖尿病 ( 4 ) 』は 、自立への道。この 10 年間で息子さんができるようになったこと、また病気と暮らしていく際の 2 つの大事なモットーについてです。

息子と 1 型糖尿病 ( 4 ) 自立への道

2018.07.06

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ABOUTこの記事をかいた人

ブラニョ

ハンガリー在住 20 年。ハンガリー人夫と娘、息子、3 歳の犬とブダペスト郊外で暮らしています。料理と読書が大好きで、最近はハンガリー語の本にも挑戦中。