ハンガリーの医療制度 ( 公的と私的サービス )


ハンガリーには、「 公的 」と「 私的 」な医療機関の両方がありますが、圧倒的に多いのは前者。それは、30 年ほど前まで共産主義国だったことが大きく、公的機関は現在でも医療サービスの基本を成しています。

医療水準は、「 欧州地域の平均にほぼ達している 」と判断されています。( 出所 : 日本外務省、世界の医療事情「 ハンガリー 」)

ここでは、公的サービス、私的サービスの仕組みや特徴、それぞれの長所と短所をご紹介しましょう。

公的医療サービス

ハンガリーの診療所 ( háziorvosi rendelő )

【 基本は無料 】

公的サービスは、「 国民健康保険制度 」 で支えられており、加入していれば原則無料。この保険にはハンガリー人のほとんどが加入しており、外国人も永住者を中心に加入しています。

国の保険制度、外国人が加入するには?

2018.03.23

【 最初は家庭医 】

では、実際に病気や怪我をした場合、どこへ行けばいいのでしょうか?

救急以外は、まずは「 家庭医 ( háziorvos ) 」を受診するのが一般的ハンガリーでは「 家庭医 」、「 専門医 」、「 救急 」の分業体制になっているため。通常、国の医療保険に加入すると、地元の家庭医に登録します。

家庭医は、患者の症状に限定することなく 「 入口的な 」 診療を施すところ。風邪、腹痛などへの対応の他、インフルエンザ予防接種、健康相談などにも応じます。日本の 「 かかりつけの医者 」 の感覚に近いでしょう。赤ちゃんやこどもの場合は、「 小児家庭医 ( gyermek háziorvos、gyerekorvos )  」 となります。

家庭医や小児家庭医の診療所 ( háziorvosi rendelő ) は、よほどの過疎地でない限りどこの市や村でもあります。診療時間は、曜日によりまちまちなので要確認。予約はした方が無難ながらも、40 分程度待たされるのは普通です。

【 専門医への紹介 】

「 専門医 ( szakorvos ) 」への受診やより詳しい検査は、家庭医が必要と判断した場合、患者に紹介します。例えば、超音波画像診断装置 ( エコー ) や X 線診断装置 ( レントゲン ) は専門医の範疇。専門医にかかるには、各診療科ごとの「 専門医診療所 (szakorvosi rendelő )  」や病院 ( kórház ) に行きます。( 専門医診療所は外来が基本。通常、入院設備を持っているところが「 病院 」と呼ばれます。 )

例外として、婦人科、皮膚科、泌尿科、耳鼻咽喉科については、家庭医の紹介なく直接、専門医診療所に行くことが可能です。もっとも、その場合も自分の居住地域の専門医診療所や病院に行くことになっており、どこでも良いというわけではないのでご注意ください。

家庭医登録は義務ではないため、登録していない人もいます。そのため、国立病院に直接駆け込むケースも見聞きしますが、上記のように、居住地別の担当病院ではないと原則、受け付けてもらえません。

公的医療機関は、数は多いものの、医療機器や設備は古め。また、医師や看護師の不足、非効率的なシステムのため、待ち時間は長く、国内では深刻な問題になっています。英語での意思疎通は限定的です ( 特に看護師 )。

<公的医療サービスの長所>
・ 無料である。
・ 最低限の基本医療サービスは全国どこでも受けられる。
<公的医療サービスの短所>
・ 受診の待ち時間が長い。
・ MRI などは予約を取るのが大変。
・ 専門に分かれているため、一か所で終わらないことがある。
・ 施設、医療機器は旧式であることが多い。
・ 英語を話す医師はある程度いるが、看護師その他の医療スタッフでは少ない。
・ ハンガリー語がわからない場合は、現地をよく知る人と一緒でない限りかなり心細い。

【 現地の病院裏事情 】

ハンガリーの公的医療サービスを語るうえで欠かせないものに、「 謝礼金 ( hálapénz・ハーラペーンズ ) 」があります。

公的サービスは、本来はすべて「 無料 」。しかし実態としては、通常を上回るようなサービス ( 例として手術や出産など ) では、多くのハンガリー人患者が数千 ~ 30 万フォリント程度を包み、医師に渡しています。また入院時には、看護師にいくらかの「 心づけ 」やチョコレートなどを渡すのが慣例。( もちろん、渡さない人もいます ! )

これはもともと、医師や看護師の給与が非常に低いことから、市民が補填するという意味がありました。また、便宜を図ってもらう狙いもあり。

謝礼金は、国内では度々問題として取り上げられるものの、「 必要悪 」として現在も根強く残っています。「 相場はいくら? 渡すのは前、後? 」というのもハンガリー人の間ではよく話題になり、それに関する記事もウェブサイトで散見されるほど。

一方で、過去に裁判で医師に有罪判決が下りたケースもあります。それによると、患者が自らの意思で真の意味で「 謝礼 」するのは罪にならないものの、医師の方から金銭を強要するなどの行為は罰せられます。

私的医療サービス

ショッピングモール内にあるプライベート・クリニック ( magánklinika )

【 西欧並みが売り 】

ブダペスト市など大きな都市では、私的 ( 民間 ) 医療機関が増えています。お金を払ってでも、公的医療機関よりも迅速で、より質の高いサービスを求める人が多くなっているためです。

私的医療機関は主に、次の 2 つの種類があります。

・専門特化の小規模診療所 ( magánrendelő ) ⇒ 主にハンガリー市民やハンガリー語が喋れる永住外国人が利用する。
・プライベート・クリニック ( magánklinika ) ⇒ 主に在住外国人やハンガリー人富裕層が利用する。

後者のプライベート・クリニックは民間企業が経営しており、西欧諸国並みのサービス提供が売り。受付から診療、診断書、支払い、保険の手続きに至るまで、すべて英語で可能です。( 追加料金で日本語通訳サービスを提供しているところもあります。)  通常、電話やオンラインで事前予約をするため、待ち時間はほとんどありません。医師、スタッフ、診療室の雰囲気も明るく、全般的に患者フレンドリーと言えましょう。

【 サービスの限度と料金 】

こうしたクリニックの大半は、すべての診療科での対応が可能である一方、外来診療が中心です。今後、精密検査や手術、入院治療サービスを提供する私立医療機関は少しずつ増えていくと期待されますが、現在では、他の専門国立医療機関への手配が一般的です。治療が長期に及びそうな場合は、帰国や第 3 国を選択する外国人も少なくありません。

サービス料金は高額。日本の健康保険制度と大きく違うのは、国家医療保険ではまったくカバーされないこと一度行くと、初診料を含めて簡単なものでも 1 万フォリントを超えます。そのため、民間保険への加入を強くお勧めします。保険会社、種類によってはキャッシュレスが可能です。

ブダペスト市内の主なプライベート・クリニック
・FirstMed Centers ( 1 区 )
・Medicover ( 市内複数 )
・Rózsakert Medical Center ( 2 区 )
・Duna Medical Center ( 9 区)
・Róbert Károly Magánkórház ( 13 区 )

プライベートクリニックの位置情報がわかる便利マップはこちらから
<プライベートクリニックの長所>
・ 患者が自由に医療機関や専門医を選んで受診できる。
・ 施設は近代的。
・ 受診の待ち時間が短い。
・ 英語 OK。日本語通訳サービスを提供するクリニックもあり。
<プライベートクリニックの短所>

・ 外来受診が一般的。高度な手術や入院のための設備を備えている施設はほとんどない。
・ 医療費は自己負担のみでは高額。民間保険に入ることが必須。
・ 国の医療保険は使えない。

 

ABOUTこの記事をかいた人

鷲尾亜子

1997年よりハンガリー在住。日本とハンガリーでの新聞記者の経験を活かし、現在、Twitter では「 ハンガリーのニュース 」、また政治経済ニュースレター「 ハンガリー経済情報 」( 有料 ) を配信中。