つんこ、がんと向き合う ( 2 ) そのとき、どう動く


乳がんと診断され、わさびつんこさん ( 在住約 20 年、40 代 ) がまず取り掛かったのは主治医探し。加えて、栄養や心の面からのアドバイスをしてくれる医師にもかかりました。そこで、口にしてはならないことを口にしていたことに気づきます。

つんこ、がんと向き合う ( 1 ) いまから、ここから

2020.06.05

名医との出会い – 出航した大船

悪性腫瘍とわかったのは、2 月下旬の金曜夕方。その日中に会社に突然の療養届を出し、最初にしたことは、主治医探しだった。

これから『 治療 』という名の大船を出発させるには、何よりもまず、信頼できる優れた船頭が必要だった。

ハンガリーでの生活は、大工でも修理工でも語学の先生でも、探すときは「 伝手 」がとても大事だ。

病気治療となれば、なおさらのこと。主人は、友人が10年前に大腸がんから寛解したことを思い出し、すぐさま相談の電話を入れた。

有難いことに、友人は即、自分の元主治医に連絡を取ってくれた。

すると、金曜の夜中にもかかわらず医師から返事。「 月曜日に病院へ来るように 」と言われた。

そして、月曜日。さらに有難いことに、友人は私たちのために会社を休み、紹介者として、医師が勤める国立病院まで同行してくれた。

友人、夫といっしょに、医師のオフィスに向かった。Photo by わさびつんこ

面談を待つ間、友人はいろいろな話を聞かせてくれた。もともと外科医であった医師は、途中でオンコロジー ( 腫瘍学 ) へ専門を転換。

現在、この分野では第一線で働く名医で、欧米のみならず日本の腫瘍学会へも招待された実績を持つ。今は、治療と同時に、医科大学の教授としても活躍している。

友人曰く、信頼も厚く患者を多く抱えているため、非常に忙しい。だから、主治医になってもらえるかどうかはわからない。あまり大きな期待をしないように、とのことだった。

医師のオフィスに通された私たちは、少し緊張しつつも、迷わず治療をお願いした。

すると、まさに幸運なことに、私たちの希望は受け入れられたのだった。

友人が 10 年間培っていた信頼関係があったからこそ叶ったこと。この時、『 治療の大船 』にエンジンがかかり、力強く汽笛を鳴らし出航したのを感じた。

医師の右腕であるアシスタントは早速、指示を受けて、血液検査、マンモグラフィー検査、超音波検査、心臓、CT、骨の検査などを次々に予約していった。そのため私は、1 週間以内でこれらをほとんど終了。

国家医療保険に加入しているので、自己負担はゼロだった。

ハンガリーでは通常、検査予約は時間がかかる。数週間どころか、数カ月先、半年先にやっととれた、とよく耳にする。そんなに待てないから、プライベートの診療所で大金を払って診察してもらう。

どんなに楽天家の私でも、何か月もまたなければならなかったとしたら、忍耐強く、前向きな心を持ち続けていられるだろうか。答えは、NO だ。

主治医を紹介してくれた友人に、心から感謝した。

もう一人の医師 –トータル治療に向けて

友人は、主治医の他に、もう一人の医師を薦めてくれた。

それは、「 トータル医療 」を推奨する内科の女医。

どんなことをするのかと言うと、まずは栄養面。血液検査の結果を見て、抗がん剤に耐えられる身体づくりのために食べ物の指導をしてくれる。これについては改めて、別の機会にまとめようと思う。

栄養指導の一環で、勧められたサプリ Photo by Ako

加えて、人間の脳と心からもアプローチする。

その医師曰く、がん細胞は脳から何らかのデータが発信されることにより細胞が悪性化するもの。

そして、がん細胞は一日にしてならず。過去 7 年間の自分の生活や行動様式、口にしていた言葉、考え方を振り返り、改めるべきところがあれば改めるよう促した。

確かに、思い当たることがあった。

家庭での私は、会社から帰宅しても休む暇なし。家事に追われ、いつも疲れていた。

有給休暇は、夫の事業のサポートのためにすべて使った。数少ない楽しみの一つだったランニングも、今から思えば、体は疲れていたのに頑張り過ぎていたかもしれない。

「もう大変すぎて、こんなんじゃ母さん、病気になっちゃうよ!」

つい、子どもたち相手に愚痴をこぼしていた。特に、去年は多かったように思う。

本当は、あなたたちももう十分お手伝いできる歳なのだから、言わなくても手伝ってちょうだい、と言いたかったのだ。

でも、自分を抑えた。思春期の子たちを相手に、期待は口にするもんじゃないと思っていたからだ。

そしてそのストレスは、私の頭の中で間違った信号を与え、私の言葉は現実となった。

自分が求めないことは、絶対、口にしてはいけなかった。

「 病は気から 」と言うが、まさにその通りと思う。口にする、しない以前に、思考パターンも健康ではなかった。

私は、周りからは頑張り屋に映っているかもしれない。でも、人に甘えられず、一人でなんでも抱え込んでしまう不器用な人間でもある。そんな自分を再認識した。

そのとき、どう動く。相田みつを氏の言葉。

抗がん治療は、仕事をしながら受ける人もいるだろう。治療環境をどうするかは個人次第。

不器用な私にとっては、治療に専念することは、正しい選択であったと思える。

そして、療養休暇の始まりは、自分と向き合う、自分探しの旅の始まりとなった。

家の周りの散歩は日課。いろいろ考えて、自分と向き合うよい時間になっている。Photo by わさびつんこ

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地元の合唱仲間が 2 月末、私たち家族のために、火災チャリティコンサートを開催してくれた。愛溢れ、涙が止まらなかった。「 私たち家族なら乗り越えられる 」と思っている試練も、こうやって多くの友人や親戚の支えを受けているからこそ。医師を紹介してくれた友人や、火災後に物理的・精神的に助けてくれる友人たちには深く感謝している。 画像提供:わさびつんこ


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ABOUTこの記事をかいた人

わさびつんこ

ハンガリー在住歴20年。ハンガリー人の優しい夫と思春期の渦中にいる 3 人の子供と田舎暮らしをしています。 コロナウィルスでの自粛生活と療養休暇のタイミングが重なり、有機野菜やスプラウト栽培をお勉強中。 趣味は音楽鑑賞と歌うこと。相田みつを氏の詩集『にんげんだもの』がバイブルです。